「前衛エンターテインメント作家」、ウンベルト・エーコ。
『薔薇の名前』はヨーロッパ中世の修道院にて殺人事件が起きる推理小説。多くの小説作品からパロディを負っている。
例えば主人公の名探偵と名推理にうなずく助手の二人の取り合わせは『シャーロック・ホームズ』のワトソンとホームズだ。冒頭の推理は18世紀啓蒙主義の作家ヴォルテールの『ザティク』(最古の推理小説と呼ばれる)からそのまま使われている。ダンテ『神曲』を意識したきらびやかな文体や、ボッカッチョ『デカメロン』と同じく毎日起きた事件を日記調に綴るなど手法面ではもちろん、主人公たちが侵入する修道院の図書館の構造もボルヘスの描いた架空の図書館をモデルにしている。
エーコの優れたところは、ジョイスやボルヘスの前衛小説を娯楽として上手に消化しているところだと思う。
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